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世界精神医学会は第1回が1950年パリで開催されて以来、精神医学関係者のみでなく、医療、保健、福祉の関係者が一堂に会し、多方面からの研究成果や情報を交換する場とされています。現在では約1万数千人が参加する世界最大の学会と言われています。 この世界精神医学会が2003年8月横浜で開催されました。日本レスキュー協会が七山病院(大阪府泉南郡)で実施するドッグセラピーの効果検証の研究結果を発表することになり、セラピードッグのデモンストレーションを行いました。


■第12回世界精神医学会 発表抄録

脳血管性痴呆に対する動物介在療法(ドッグセラピー)の効果
鈴木英鷹(*),本多義治(**),小川真理子(**),大湾由美(**),南里裕美(**),大山ひとみ(***)
(*):大阪体育大学短期大学部
(**):医療法人爽神堂・七山病院
(***):日本レスキュー協会

(はじめに)
「動物介在療法(animal assisted therapy)」は動物と触れ合うことで患者の症状を軽減させようとする補助療法で,欧米では1970年代から行われてきた.本邦ではその効果については知的障害児等での事例報告はあるものの,臨床的検討に関しては研究報告が殆どない.そこで今回,脳血管痴呆患者を対象に犬による動物介在療法の効果を検討した.

(対象と方法)
対象は七山病院に入院中の脳血管性痴呆患者10名(男6名,女4名,平均年齢73.8歳)である.脳血管性痴呆の診断基準はDSM-_に従い,痴呆の重症度はCDRによった.患者及び患者の家族に対してセラピーについての説明を行い同意を得た.これらの患者を5名1グループとして12週間に渡り週1回30分間,日本レスキュー協会で高度な訓練を受けたセラピードッグによるセラピーを行った(期間は平成13年6月から8月で,セラピーには5歳の雌のゴールデンレトリバーを用いた).セラピーの内容は,日時の確認・名札作り,キャッチボール,エサやりを固定のプログラムとし,残りの時間を全員で行うことができ,個人が楽しめるプログラムで構成した.セラピー開始時と8週後,12週後に,Mini-mental State Examination(MMSE),GBSスケール(痴呆症状評価尺度)を実施した.尚,セラピー期間は原則として薬物の変更は行わないこととした.

(結果と考察)
痴呆の程度については対象となる10名は全員,中等度痴呆であった.セラピーの効果を開始後8週目に評価できたものは8名,開始後12週目に評価できたものは6名であった.MMSEでは,開始時の得点と8週目の得点,開始時の得点と12週目の得点のいずれも,対応のあるt検定では有意差はなかった.MMSEの得点が有意に改善しなかったことは,有意に悪化しなかったことをも意味する.痴呆では知的機能が持続的に低下することから鑑みると,MMSEの得点が有意に悪化しなかった意味は大きいと考えられる.GBSスケールでは,GBS全体と「自発活動の欠如」,「錯乱」,「速い動作の困難」の項目において,開始時の得点と12週目の得点で有意な差が見られた.これは自発活動の増加や速い動作が可能になったというような活動面と,うろたえることが減少したという情緒面に改善がみられたことを示している.ドッグセラピーにおいてこのような結果が得られたことは重要であり,長期間のセラピーによる検討が今後の課題となろう.一方個々の症例では,従来病棟で見ることのできなかった表情や言動がみられるようになった.例えば,ある男性患者では回を重ねる毎に笑顔や発語の回数が増え,病棟でも犬を介した新たな会話が生まれた.別の男性患者では「犬に会いに行く」「散歩に行きたい」などの外出要求が増え,スタッフとの散歩が日課になった.スタッフの側からみれば,前述のように患者との会話が増えたり,患者が今まで持っていたが気づかれなかった面に目を向けることができたといえる.このようなことから,動物介在療法の効果を評価する上で,個々の事例研究の積み重ねと同時に,従来から痴呆評価に用いられているスケールでの評価の妥当性も今後の検討課題となろう.